AFTER TALK「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」を終えて。

• 全9話に渡ってKUTANism総合監修・秋元雄史が、九谷焼の現場を訪ね歩いた「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。取材をおえて、秋元さんは「当初の仮説は、ものの見事に打ち砕かれた」と嬉々として語ります。工房を訪ね、作り手と対話する中で、どんな気づきがあったのか。今回は取材を終えた秋元さんの感想を、特別版・アフタートークとしてお届けします。

案内してくれた人

秋元雄史さん

KUTANism全体監修
東京芸術大学大学美術館館長・教授、練馬区立美術館館長
©2019 KAMADO Inc.（Photo by Yuba Hayashi）

• 九谷焼の“多様さ”への疑問

• 「現場をあたる」ということの重要性を、今回改めて感じましたね。正直言うと、僕も九谷焼というものの多様さを、どう捉えたらよいのかわからなかったんです。
  赤絵が細密化していく江戸時代までは、何とか現代的に解釈することができたんですが、明治以降の展開となると、もはや同じストーリーでは説明がつかなくなってくる。なんでここまで「絵」を描くのだろうとか、この「暴れ具合」は何なのだろうって。それは単に、変わりゆく時代の要請に応えてきた結果なのだろうか、と当初は考えていたんです。


• 


• しかし、それは外からの刺激に対して単に反応した動きではないということが、KUTANismでの取材を通してよく分かりました。かなり考えているし、かなり遊んでいる。主体的に“際（きわ）”を攻めているというか、時代ごとに九谷焼の「テーマ」を見つけて取り組んでいる印象を受けました。
  一つ例をあげると、絵付師の高聡文さんを取材させていただいた時に「ああ、本当に『絵』として九谷焼を描いていたんだ」ということに合点がいったんです。明治以降に多用される九谷焼のモチーフである山水だとか歴史画だとかは、もう完全に水墨画のテーマですよね。
  幕末までは漢画を描いていた狩野派のような、非常に高い教養を持った藩のお抱え絵師たちがいたわけですが、それが明治に入って解体していく。けれど、その“気分”だけが残って継承されていくというか、九谷焼に憑依していく。絵付け用の洋絵の具の中でグレートーンをつくりだすという無茶なこともやったり。つまり狩野派と漢画の描法を焼き物に転化させている。これはかなり高度なことです。


• 



• 「断続」の中で、刷新されてきたもの

• そしてこの時点でも「和絵の具をつかった五彩の九谷焼」というものからは全く離れているわけです。そこで思ったのは、本当の九谷の面白さは「技法の断絶」というか、「美意識の断絶」にあるのではないかということでした。
  実際に古九谷が途絶えたことも含め、九谷焼の特徴を「分断」にあると考えてみると、360年の分断と接続の歴史は、九谷焼そのものだと言えるのではないだろうかと。
  「途切れている」ということは、ネガティヴに捉えられるかもしれないけれど、それによってまた違うものが芽吹いてくるということでもある。逆説的だけれど、途切れることによって、九谷が生まれてきた。途切れながらも続く、その「断続」の中で九谷焼が刷新されてきたという考え方もできるのではないでしょうか。


• 「青手芭蕉図鉢」／能美市九谷焼美術館｜五彩館｜所蔵


• 若杉窯「染付霊獣文皿」／能美市九谷焼美術館｜五彩館｜


• 本源堂「彩色割取花鳥図大花瓶」／能美市九谷焼美術館｜五彩館｜所蔵


• それぞれの時代の“九谷焼”があって、それは他の地域なら「有田焼」「薩摩焼」「波佐見焼」といった具合に、焼物の名前すら変わっていてもおかしくないくらいの違いなわけです。スポーツで例えるなら、もはや別種目でルールからして違うというか。その様々な様式の「総体」を「九谷焼」として呼んでいる。そこも非常に興味深いですよね。

FOLLOW US産地の最新情報を更新しています